『さみしい夜にはペンを持て』感想|日記が続かない大人にこそ

こんにちは!哲学が好きなんだけど、専門家でも研究者でもない、ただのファンが好き勝手に語るブログへようこそ。

今日は、哲学書の棚では見つからなかった本の話をさせてください。買った理由も、正直まったく立派ではありません。表紙が可愛かったから。それだけです。

ところが読み終えたとき、私の頭に残っていたのは「これは、いちばん身近な哲学の本かもしれない」という感想でした。『さみしい夜にはペンを持て』。13歳に向けて書かれた本です。

「日記を書こうと思うのに、どうしても三日でやめてしまう」——そんな経験、ありませんか。私はずっとその当事者でした。今日はその話も含めて、私なりの読み方をシェアしてみたいと思います。解釈が間違っているかもしれませんが、それもまた哲学の面白さということで!

きっかけは、完全な「パケ買い」でした

先に白状しておくと、私はこの本の中身をほとんど知らないまま買っています。

私は絵を見るのも描くのも好きで、書店ではどうしても装丁に目がいってしまいます。この本を見つけたときの第一声は、たぶん声には出ていませんでしたが「可愛い!!!」でした。海のなかを描いた表紙が、とにかく美しいんです。

手に取ってみて、どうやら13歳に向けた本らしい、「書くこと」についての指南書らしい、というところまでは分かりました。分かったのはそこまでです。しかもシリーズで2冊並んでいたので、そのまま2冊とも抱えてレジに向かってしまいました。衝動買いです。

後日調べたところ、イラストを担当されているのはならのさんという方でした。他の作品も見てみたのですが、どれも本当に素敵で、装丁に釣られた自分の判断は間違っていなかったな、と一人で納得しています。

『さみしい夜にはペンを持て』ってどんな本?

著者は古賀史健さん。『嫌われる勇気』(共著・岸見一郎)の著者、と言えば伝わる方が多いかもしれません。その古賀さんが、はじめて13歳に向けて書き下ろした本だそうです。

物語の主人公は、うみのなか中学校に通うタコジロー。学校に居場所がなく、自分のことが大嫌いな男の子です。そんな彼が、あるとき不思議なヤドカリおじさんと出会い、そこから少しずつ変わっていく——という筋立てになっています。

そして、彼が変わっていくための手段として渡されるのが「書くこと」、もっと言えば日記でした。

ここが、読み始めた私にとっていちばん意外だった部分です。てっきり「上手な文章の書き方」を教えてくれる本だと思っていたのですが、読み進めるうちに、そうではないことが分かってきました。書き方を学んでいたはずのタコジローが、いつのまにか自分自身と対話しているのです。

ちなみに、この本の販促物には「自分は何者か?」という言葉が大きく掲げられています。いま振り返ると、あの一行がいちばん正確な内容紹介だったのかもしれません。

※書誌情報:古賀史健 著/ならの 絵『さみしい夜にはペンを持て』ポプラ社/2023年7月18日発売/292ページ/単行本 税込1,650円(Kindle版1,485円・Audible版あり)。第73回小学館児童出版文化賞の最終候補作にもなっています。なお続編『さみしい夜のページをめくれ』(ポプラ社/2025年3月19日発売/351ページ/税込1,760円)は「読む」ことがテーマだそうです。私が2冊まとめ買いしたのがこちらで、こちらの感想はまた別の記事で書こうと思っています。
※価格・仕様は2026年9月時点の情報です。最新の情報は販売ページでご確認ください。

私が何年も解けなかった「なぜ書けないのか」問題

ここからは、本を離れて私自身の話です。

私はこれまで何度も日記に挑戦しては、何度も脱落してきました。いわゆる三日坊主です。大人向けの「ジャーナリング」の本も何冊か読みました。書くと頭が整理される、感情が落ち着く、というのは理屈としては分かる。分かるのですが、続かない。

私にとって長いあいだ謎だったのは、続かないことそのものより、その手前で手が止まるという現象のほうでした。ノートを開く。ペンを持つ。そこで固まる。書けないから続かない。順番としてはこっちなんです。

この本を読んで、私なりにたどり着いた仮説はこうです。私はずっと日記を「誰かに読まれてもいい文章」として書こうとしていたのではないか。つまり作文です。宛先が自分ではなく、どこかにいる採点者になっていました。だから書き出しで固まりますし、書けたとしても嘘が混じります。

しかも作文として書こうとすると、毎日似たような内容、似たような文章になっていきます。そうなると、やがて「これ、書く意味あるのかな」という気持ちにたどり着いてしまう。続かなかった最後のひと押しは、たぶんここでした。

そしてもうひとつ、これはこの本を読んで気づかされたことなのですが、私の日記はその日あったことの記録にしかなっていませんでした。「今日はこういうことがあった」「そのときこう思った」。それだけ。

そうではなくて、書きたいと思った場面をもっとスローモーションで細かく見ていく。そのときの自分の行動、気持ち、周りの状況まで、ゆっくり思い出していく。必要だったのはそちらだったんだと感じました。

言われてみれば当たり前のようですが、私はこれを何年も分からないままでいました。ここを13歳にも伝わる形で書いてくれる本が、少なくとも私の読んできた範囲には無かったのだと思います。

そして、この本がすごいのは、そこを13歳にも分かる速度でほどいてくれるところだと思います。大人向けの本は、どうしても「書くと良い理由」から入ります。でもこの本は、13歳が相手であることを一度も忘れません。だから、手が止まる瞬間そのものに付き合ってくれる。

対象年齢が下だから内容が薄い、という話ではまったくないんですね。むしろ、ごまかしが効かないぶん丁寧になっている。このあたりの感覚は、以前書いた哲学入門に子ども向けの科学の本がいい理由|大人こそ読みたい2冊とも地続きだなと感じています。

「さみしい夜」と「ひとりの夜」は、別のものかもしれない

さて、ここからが私がいちばん書きたかった部分です。

この本を読み終えて私が感じたのは、「これこそ、いちばん身近な哲学だ」ということでした。自分と向き合うこと。自分は何者なのかを考えること。これは、哲学がずっと手放さずにきた問いそのものだと思うからです。

そして、そのことを考えていて思い出した哲学者がいます。ハンナ・アーレントです。

アーレントが分けた「さみしさ」と「ひとりでいること」

アーレントは、日本語だとどちらも「孤独」と訳されてしまいがちな状態を、はっきり別のものとして区別した人です。厳密にはもうひとつ isolation(世界そのものから切り離されている状態)もあるのですが、ここでは2つに絞ります。

  • loneliness(さみしさ・見捨てられている状態):人の中にいてさえ、誰からも必要とされていないと感じる状態
  • solitude(ひとりでいること):物理的にはひとりだけれど、自分自身と一緒にいる状態

アーレントによれば、この2つ目の「ひとりでいること」こそが、思考が生まれる場所なのだそうです。そしてアーレントは、プラトンから引き継ぐかたちで、考えるという営みそのものを、自分と自分とのあいだで交わされる声にならない対話だという趣旨で説明しています。ひとりのとき、人は本当にひとりではなく、二人になっている。だから対話ができる。

この話を知ったとき、私は正直ちょっとぞわっとしました。だって、タコジローが日記でやっていたことと、まったく同じ構造じゃないですか。

教室でどれだけ人に囲まれていても、タコジローはさみしい。それは loneliness のほうです。でも、夜にひとりでペンを持ったとき、彼は自分と二人になれる。そこで起きているのが solitude で、彼はそこではじめて「考える」ということを始めたのではないか——私はそんなふうに読みました。

もちろん、アーレントの議論はもともと政治や全体主義を論じる文脈で出てきたもので、日記の書き方の話ではありません。専門家の方が見たら「それは当てはめすぎだ」と言われるかもしれません。私の読み方が正しいかどうかは、正直わかりません。

でも、『さみしい夜にはペンを持て』というタイトルを、私はこう読み替えたくなりました。さみしい夜を、ひとりの夜に変えるための道具がペンなのだ、と。

自分を知ることは、たぶんメンタルケアでもある

「汝自身を知れ」という言葉は、ソクラテスの代名詞のように語られますが、もとはデルフォイの神殿に掲げられていた格言だそうです。哲学の出発点みたいな言葉として、あちこちで引かれます。

ただ、私はこの言葉をずっと、どこか高尚なものとして受け取っていた気がします。自分を知るというのは、人生観とか使命とか、そういう大きなものを見つけることだと思っていました。

でもこの本を読んで、もっと手前の話なのかもしれないと思うようになりました。今日なんだかしんどかった、その「なんだか」が何だったのかを言葉にしてみる。それだけでも、自分を知る作業は始まっている。そして、言葉にできた時点で、しんどさは少しだけ扱いやすいものに変わっている気がします。

哲学というと、生き方の問題と心の健康の問題は別々に語られがちですが、この本を読むかぎり、入り口はけっこう同じ場所にあるのではないでしょうか。

ちなみに「子どもに何をどう手渡すか」という話は、学校の勉強は役に立たない?哲学で考えてみたでも別の角度から考えています。あちらが「勉強する意味」をめぐる話だとすると、こちらは「自分と付き合う方法」をめぐる話、という関係かもしれません。

通勤電車なら、Audibleという手もあります

この本、実は音声で聴くのもかなりおすすめだと思っています。

理由のひとつは、満員電車です。本を開くという行為そのものが苦痛になる状況って、ありませんか。私は毎日それをやっているので、紙の本を諦める日がどうしても出てきます。そういう日でも、耳なら空いている。

もうひとつは、この本がもともと物語の形をしているからです。タコジローとヤドカリおじさんの会話で進んでいくので、読み上げとの相性がいいんですね。Audible版のナレーションは板倉ミキさんが担当されています。

それから、本を読むのが苦手なお子さんに音声で聴かせる、という使い方もあると思います。文字を追うのが億劫なだけで、話の中身は届く、ということは普通にありますから。

Audibleは無料体験期間があるので、まず1冊試してみて合わなければやめる、という始め方ができます。

この本、どんな人におすすめ?

  • 日記やジャーナリングを始めては、毎回やめてしまう方
  • 書きたい気持ちはあるのに、一行目で手が止まってしまう方
  • 哲学に興味はあるけれど、人名と用語が並ぶ本で挫折した経験がある方
  • 人といるのに、なぜかさみしいと感じることがある方
  • お子さんが学校でしんどそうにしていて、何と言えばいいか分からない方
  • 装丁やイラストが好きで、本を「モノ」としても楽しみたい方

292ページとそれなりの厚みがありますが、文章はとても平易で、会話も多いので読みにくさはまったくありませんでした。私は通勤の行き帰りで少しずつ読み進めています。

そして、これは声を大きくして言いたいのですが、13歳向けと書かれていますが、13歳をとっくに過ぎて、自分との付き合い方がこじれてしまった側の人間にこそ効く本だと、私は感じました。

気になった方は、よかったらこちらからどうぞ。

続編『さみしい夜のページをめくれ』は、これから読みます

最後に、これから読む本の話を少しだけ。

冒頭に書いたとおり、私は書店でこのシリーズを2冊まとめて買っています。もう1冊が続編の『さみしい夜のページをめくれ』です。表紙は図書館のような場所で、タコジローが本を開いている絵。これもまた、ならのさんの絵が本当に良いんです。

前作のテーマが「書く」ことだったのに対して、今作のテーマは「読む」ことだそうです。中3になったタコジローが、今度は本と出会っていく話らしい、というところまでは分かっています。正直に言うと、まだ1ページも開いていません。

理由は単純で、前作の「スローモーションで書く」を自分でしばらく試してみたかったからです。続けて2冊読んでしまうと、たぶん読んだだけで満足してしまう。これは私の悪い癖なので、今回は少し間を空けることにしました。

ちなみに調べてみたら、シリーズは累計20万部を超えているそうです(商品ページの表記より/2025年7月時点)。それと、これは個人的に面白かったのですが、続編のほうはAmazonで「心理学入門」のカテゴリに置かれていました。書くことと読むことを扱った物語が、心理学の棚に並ぶ。学問の線引きって、思っているより曖昧なんだなと改めて感じます。

読み終えたら、またここで感想を書こうと思います。

まとめ:自分は何者か、という問いの入り口

表紙が可愛いという理由だけで買った本が、読み終えてみたら「自分は何者か」という、哲学がいちばん長く抱えている問いの入り口になっていました。しかも、その入り口として差し出されていたのが、日記という信じられないくらい身近な道具だった。

書くことは、自分との対話である。そしてアーレントの言い方を借りるなら、対話が起きているとき、人はさみしいのではなく、ひとりでいるのだと思います。『さみしい夜にはペンを持て』というタイトルは、たぶんそういうことを言っているのではないでしょうか。

繰り返しになりますが、私の解釈が正しいかどうかは正直わかりません。アーレントの当てはめ方も、かなり自己流です。でも、自分なりに考えてみること自体に意味があると思っています。それこそが、ソクラテスの「無知の知」的な楽しみ方じゃないかなと。

そういえば、私が哲学書を読むようになった経緯も、決して立派なものではありませんでした。その話は哲学書を好きになった理由|読書嫌いだった頃の話に書いています。

最後に、皆さんに聞いてみたいことがあります。皆さんは、日記が続くタイプですか? もし続いている方がいたら、どうやって最初の一行を書き始めているのか、ぜひ教えてください。逆に、私と同じで何度も挫折している方がいたら、それはそれで心強いので、そっと教えてもらえると嬉しいです!


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